ダン・ブリックリンとVisiCalc

テケレッツ

ダン・ブリックリンがVisiCalc(世界最初のPC向け表計算ソフト)を思いついた経緯やその後についてのTED

このTEDを見て、「表計算ソフトの考案者」と聞いて想像する人とは印象がちょっと違ったので、少し調べてみた(まとまりもオチもない)。

まず、TEDで言っている、ヘッド・アップ・ディスプレイに浮かんだ数字を電卓付きマウスで操作するっていう発想が、現状の表計算ソフトを見慣れた身からするとだいぶはっちゃけている。

一番最初のデザインは、超現実的なものでした。マウスの場合と同じように、カルキュレータの底の部分にボールがくっついてるんです。ですから、カルキュレータをあちこち動かして、スクリーン上の好みの位置にカーソルをもってくることができるわけなんです。そして、カルキュレータには、すぐ指の届くところにナンバー・キーパッドがついていますから、計算をするためにカルキュレータから手を離す必要がないんです。私は、前方表示装置というのをやってみたかったんです。これは、すぐ目の前に数字が浮かび上がってくるという仕掛けなんです。戦闘機などに使われてます。

ー ダン・ブリックリン : 『実録!天才プログラマー』 - P.146

超現実的という自覚はあったらしい。ヘッド・アップ・ディスプレイの理由は、やってみたかったから。なぜやってみたかったのかは分からない。

時代を飛ばすが、1990年にSlate社(Slate Corporation)を共同設立し、GO社(GO Corporation)のPenPoint OS(ペンタブレット用OS。下記動画参照↓)や、MicrosoftのWindows for Pen Computing、AppleのNewton用のソフトを開発してたらしい。

PenPoint OSの紹介動画、12分25秒にダン・ブリックリンも映る

具体的にどのようなソフトを開発していたのかはここの中頃に書いてある。

更に時代を飛ばして2002年8月15日。こんなエッセーを書いて当時話題になったらしい。
Why johnny can’t program
宣言的なUIより、直接操作(direct manipulation)するUIのがもっとユーザフレンドリだよね。といった内容のエッセー
タイトルでWeb検索すると同名のあやかった俺俺論がいっぱいでてくる。

その後もiPhone/iPod Touch用にNote Taker、iPad用にNote Taker HDって手書きノートアプリを作っている。

Webで調べたのはこれくらい
他にも開発されたソフトウェアはたくさんあるけど差っ引いた。気になる人はこことかこことか個人サイト↓を見て
ダン・ブリックリンの個人サイト(エッセー、ブログ、ポッドキャスト、VisiCalcの特集ページなどがある。)
あとは、Twitterアカウントがあったのでいくつかのキーワードを併記して検索とかはしたっちゃした。

Web以外では、たまたま手元に『実録!天才プログラマー』というダサいタイトルの1980年代の有名プログラマー達へのインタビュー本があり(ジェフ・ラスキンが載ってるからね)、ダン・ブリックリンとボブ・フランクストンへのインタビューが載ってたので読んでみたけど、そんなに面白いことは書いてなかった。
が、気分でちょっと引用する

スプレッドシートを使う人は、だれでもプログラムを書いていることになるんです。ただ、それに用いられる言語が異なったものである、というだけのことなんですよ。

ー ダン・ブリックリン : 『実録!天才プログラマー』 - P.158

われわれは、ユーザーがますます自分でプログラミングをやるように仕向けているわけですが、ユーザーはそのことに気づいてないんですね。Microsoft Wordで、いろいろと異なったスタイルのシートを使えば、それは、すなわち、プログラミングをやっていることなんです。スプレッドシートを使うことは、プログラミングをやることなんです。

ー ダン・ブリックリン : 『実録!天才プログラマー』 - P.159

最初のアイデアでは、TVスクリーンと、画面上の事柄をリモコンで指示するハンドヘルドのカルキュレータとを組み入れることになっていたんです。

ー ボブ・フランクストン : 『実録!天才プログラマー』 - P.168

ー 新聞・雑誌がVisiCalcに対して示した反応に驚かれたのではありませんか?

それほど早くから成果が上がったわけじゃないです。二年かかりましたよ。こんなに時間がたったのに、世間がVisiCalcのよさを、まだ理解できないとは、がっかりしちゃうなと思いましたよ。いまだに理解できてない人も大勢いますからね。その人たちはVisiCalcをプログラミング言語としてとらえていないんです。そういう面が理解できてないんだな。

ー ボブ・フランクストン : 『実録!天才プログラマー』 - P.169

おわりに

いかがでしたか?
Why johnny can’t programが分かりやすいけど、それなりに一貫して直接操作推しなんだなという印象を受けた。

表計算ソフトはマス目という制約を介すことで利便性を上げる発想だと思ってたんだけど違った。逆だった。モデル(黒板での書き方や紙のスプレッドシート)から計算が面倒という制約を無くしたのがマス目なだけだった。

雑に言えば、「表計算ソフトの作者は『”使う”と”作る”は本来同じだろ?派』だったんだな、ちょっと想像と違ったな」、そんなことを思った一日だった。